完全版:家族信託のメリット・デメリット

2024年01月14日

家族信託とは、本人が認知症になって自身の財産管理ができなくなるリスクに備えて、家族などの「信頼できる人」に財産管理を託すことです。

 

こうした財産管理を他人に託す方法は、家族信託以外にも複数存在するため、メリットやデメリットなど家族信託制度の仕組みを理解する必要があります。

 

今回は、家族信託のメリットやデメリット、手続きや費用で、活用例など家族信託の概要について解説します。

 

 

 

||家族信託とは||

 

家族信託とは、家族など信頼できる人に財産管理を任せる方法です。

家族信託は「信託」のひとつの形態です。現在では、「認知症による資産凍結」を防ぐ対策として注目されています。

 

 

・家族信託が注目される理由

 

核家族化が進み、少子高齢化が問題となるなど、時代の流れとともに家族のあり方にも変化が生じてきています。その変化に応じる形で、家族だけでできる家族間の財産管理の一つの方法として、家族信託への注目が高まっています。

 

家族信託が注目される理由としては3つあります。

 

・高齢化に伴う両親や、祖父母の認知症対策で使える

・成年後見制度と比べて柔軟な財産管理が可能

・本人死亡後の資産承継対策として使える

 

このような理由から、家族信託がどういうものかを知り、利用される方が増えています。

 

 

 

・家族信託の仕組み

 

高齢の親の財産管理を行うための家族信託では、親が所有する財産を信頼できる子などの家族に託し、親のために財産管理をしてもらうとすることが一般的です。

 

 

一般的な家族信託では、下記のような当事者関係となります。

 

・委託者:財産管理を託す親

・受託者:財産管理を担う子

・受益者:信託財産から利益を受ける親

 

 

例えば、信託財産として金銭を設定した場合、信託財産である金銭を子は親の日常生活費、医療や介護費用などを子が自宅の管理をして、施設入所するなど必要に応じて自宅の売却をすることも可能です。その売却によって得られた金銭は、親のもの(信託財産)として管理し続けます。

アパートや貸しビルなどの収益不動産を信託財産とする場合も同様に、子が管理し、家賃収入などの収益は親のものとして管理が可能になります。

 

信託契約で定めた信託財産について、受託者(子)が受益者(親)に代わり、親のために信託契約で定めた権限を持って財産管理をすることができます。

 

 

通常の通常の財産は財産管理者と権利者が所有者という形で一致しているため、所有者が認知症になると資産凍結という問題が発生してしまいます。

ですが家族信託の場合は、財産管理・処分をする受託者と実際に収益を得る受益者という形で、管理処分者(受託者)と収益と権利者(受益者)を分けることで、受益者が認知症になり判断能力が亡くなった場合でも、信託財産は受託者の名義で管理できます。

受託者の判断で管理運用が継続できるのです。

 

 

・家族信託の当事者とは

 

家族信託では、財産管理を託す「委託者」、財産管理を託された「受託者」、信託財産から生じる利益を受け取る「受益者」が当事者となります。

それぞれ見ていきましょう。

 

 

委託者

自分の財産管理や処分を任せる本人そのものです。

委託者が定めた信託契約の内容に従い、受託者は財産管理を行う義務が生じます。委託者と受託者との間の信託契約に伴い、財産的な権利は受益権として受益者が有することになります。そのため、高齢の親の財産管理を行うための家族信託では、委託者と受益者が同一人(自益信託:委託者=受益者)とすることが一般的です。

 

信託契約後では、信託関係の権利関係係は、受託者と受益者との間で形成されます。

 

 

 

受託者

委託者から財産の管理や処分を託された人です。
委託者から財産を託された受託者には、信託契約の中で定めた内容に従い信託財産の管理や処分など、信託の目的を達成するために必要な権限が与えらます。
不動産の売却や購入、銀行からの借り入れ等はそうした権限のひとつです。

 

 

こうした権限が与えられる代わりに、受託者には次のような義務が課せられています。

 

①信託事務遂行義務……委託者の意図にもとづいて信託事務の処理を行う義務
②善管注意義務……受託者が信託事務を行う際、善良な管理者に要求される程度に注意をもって行う義務べき
③忠実義務……法令や信託契約で定められた信託目的にしたがって受益者のために信託事務の処理を行う義務
④公平義務……すべての受益者のために公平に職務を行う義務
⑤分別管理義務……信託財産と受託者自身の財産を一定の方法で分別して管理する義務
⑥信託事務処理者の監督義務……信託事務を委託した第三者に対し信託の目的達成のために適切な監督を行う義務

 

受託者は義務に違反し信託財産に損失や変更が生じた場合、損失補てん責任または原状回復責任を負うことになります。

 

 

 

受益者

信託財産から生じる利益を受ける人のことです。

受託者は信託契約の内容に従い、信託財産の管理を行い、受益者の生活費、医療費などを支出します。

例えば賃貸アパートなどを信託財産とした場合は、受益者のためにアパートを受益者のために管理修繕し、賃料の一部を受益者に交付します。このように、信託財産を受益者のために管理運用し、受益者の利益に適うよう受託者は財産管理を行います。

 

 

 

・銀行の家族信託や民事信託との違い

家族信託を含めた信託は、信託法によって定められる仕組みです。平成18年(2006年)に信託法が改正され、一般のご家庭でも利用できるようになりました。

 

信託とは、お金や不動産など資産を所有している方(委託者)から資産を委託される方(受託者)に資産の所有権を移転し、受託者は信託契約や遺言等で定められた信託目的にしたがって資産から利益を受ける方(受益者)のために資産の管理を行う制度です。

 

信託法の改正により、信託の目的や誰を受託者にするか等の信託行為は、信託契約か遺言、一定の方式による意思表示によることと定められました。

 

信託には、家族ではなく信託銀行や信託会社が受託者となって営利目的で財産管理を行う信託商品や投資信託等の「商事信託」と、受託者が営利を目的としないで財産管理を引き受ける「民事信託」の2種類があります。

「民事信託」は財産管理を託す受託者は家族に限られません。

ですが家族内で財産を託すことが多いので「家族信託」とも呼ばれています。

 

 

 

 

||家族信託のメリット||

 

 

家族信託を本格的に検討しようとする場合は、しっかりとメリットとデメリットを見極めて決定することが大切です。

先にも触れましたが、成年後見制度などの一見似ている制度との違いを理解しておかないと、いざという時にトラブルが発生してしまう可能性があります。

 

まずは以下の9つのメリットの内容を理解し、将来に備えた選択をするための検討材料としてみてください。

 

 

①委託者の認知症に左右されず財産管理できる

②自由度の高い財産管理が可能となる

③成年後見人制度より柔軟な財産管理が実現できる

④遺言代わりの効力を持つ

⑤不動産共有による親族間のリスクを回避できる

⑥遺族の負担を軽減できる

⑦倒産隔離機能がある

⑧二次相続について指定できる

⑨事業承継対策でも活用できる

 

 

①委託者の認知症に左右されず財産管理できる

 

高齢者の認知症が珍しいものではなくなっている現代では、親が認知症にかかってしまい財産が凍結してしまうという問題が増加しています。財産の管理能力が低下していると判断されてしまうと、所有している不動産を売却することができないほか、預貯金も引き出せなくなってしまうのが事実です。認知症により財産が凍結してしまうのです。

 

資産凍結後の対策である成年後見制度では本人の判断能力が衰えてしまった後に、後見人が財産管理を担うことができます。しかし、成年後見人が選任される前では家族であっても財産管理がおこなえないという問題が生じてしまいます。

 

家族信託を本人が元気なうちにしておけば、受託者名義での財産管理が可能となるため、委託者の判断能力にかかわらず、財産管理ができる点が大きなメリットだといえるでしょう。

 

 

②自由度の高い財産管理が可能となる

 

家族信託では、委託者と受託者間の信託契約によって、受託者に財産管理させる内容を自由に定めることができます。

金銭を定期的に本人に給付する、施設利用料は口座引き越智氏や振込の方法で支払う、信託財産を特定の目的に利用する、信託不動産であるアパートは売却・賃貸できるようにするが、自宅は売却できないようにする、融資を受けて収益物件を建築するなど、信託契約によって委託者が自由に受託者に対して任せたいこと、禁止したいことを定められます。

 

家族信託であれば、元気なうちから当事者間の契約で定めた内容に従い財産管理を任せることができ、本人が判断能力を喪失した後も家族だけで引き続き財産管理が可能となることもメリットの一つです。

 

 

 

③成年後見人制度より柔軟な財産管理が実現できる

 

成年後見人制度との類似点が強調される家族信託ですが、実際にはより柔軟な財産管理が可能になる点がメリットといえます。そもそも成年後見制度は、本人が意思決定能力を失ってしまった後にも、その財産を保護し支援するのが目的です。

 

そのため成年後見人はあくまで本人の財産を代わりに管理し、判断力が低下してしまった後でも生活を続けるための支出のみが許されています。反対に家族信託では、財産の管理方法を信託契約のなかで自由に決定可能です。

たとえば、不動産の購入や株式投資などのリスクを伴う資産運営は、家族信託でのみ許されています。

 

 

 

④遺言の代わりの効力を持つ

 

家族信託には、遺言の代わりとして活用できる効力があります。残された親族に本人の資産承継先の意向を伝える遺言は広く知られていますが、実際に遺言を残すには厳格な手続きを踏まなければなりません。

 

遺言に法的な効力をもたせるためには、民法で定められている方式や作成方法に沿ったものにする必要があります。一方の家族信託は特別法である信託法に基づいており、遺言のような複雑なルールなしに死後の相続について取り決めることができます。

 

 

 

⑤不動産共有による親族間のリスクを回避できる

 

家族信託は、兄弟姉妹など親族で1つの不動産を共有する形で譲り受けたケースで、リスク回避の役割を果たします。高齢者同士が共有で不動産を所有している場合に問題となるのが、そのなかの誰かが意思決定能力を失ってしまった場合です。

 

共有者全員の同意がないと不動産の運営や修繕、売却などができないため、高齢者が不動産を共有する際にはリスクを高齢者が判断能力を喪失し手続きができなくなるリスクを知っておく必要があります。そのような状況で家族信託があれば、特定の1人の代表者に決定権を集められます。

 

代表者が収益不動産の経営をして得た財産は、その他の親族も受け取ることが可能です。このように親族間のリスク回避のためにも、家族信託が活用できます。

 

 

 

⑥遺族の負担を軽減できる

 

親族が死亡した際には、各種手続きや残された財産の相続問題などさまざまな処理が必要とされます。

遺言などで財産の継承者が詳しく定められていない場合は、遺産分割協議でトラブルが起きてしまう恐れがあるでしょう。

遺産分割協議自体も相続人全員が参加できなければ、話し合いを進められないのが注意点です。認知症などを患っている相続人がいる場合は、話し合いのために成年後見人を立てなければなりません。

 

そこで遺言の代わりとして用いることができる家族信託をうまく活用すれば、相続問題をスムーズに解決できます。本人が元気なうちに家族信託を活用し資産承継方針を決めることができれば、遺族の負担は大幅に減らせるでしょう。

 

 

 

⑦倒産隔離機能がある

家族信託によって定められた信託財産は、受託者の破産時にも差し押さえの対象にならない「倒産隔離機能」を備えています。

倒産隔離機能は、受託者が破産や差押を受ける場合になっても受託者個人の財産だけが差押の対象となり、信託された財産については差し押さえはされないというルールです。

 

信託財産が差し押さえの対象から外されるのは、受託者の個人財産ではないと判断されるためです。この倒産隔離機能があるため、受託者個人の借金などの債務とは分離されて信託財産は守られます。

 

この倒産隔離機能は、受託者の個人の借金と信託財産が分離されて護られる仕組みであり、親(委託者・受益者)側の問題では、この機能は働かない点に注意しましょう。

 

 

 

⑧二次相続について指定できる

 

受益者連続型信託を活用すれば、子どもや配偶者への相続だけではなく、孫やひ孫といった複数世代にわたる相続先を定めることができます。強い効力をもっている遺言であっても、二次相続人以降の相続には関与できません。遺言や生前贈与では、財産を受け取った人が亡くなった後に、誰が財産を受け取るかまでは関与できないのが一般的です。

 

家族信託ではより自由に相続についての指定「受益者連続型信託」が可能であるため、本人の希望が叶えやすいという一面があります。直系家族を中心に相続をしたいと考えている場合や、配偶者から子ども、孫世代へと財産を確実に相続させたい場合にも役立つでしょう。

 

 

⑨事業承継対策でも活用できる

 

金銭や不動産以外の財産を信託財産とすることができるのが、家族信託のメリットの一つです。

 

例えば、会社の創業オーナーが有する自社株式を信託財産とすることで、株式の承継や事業継承の計画を具体的に行うことができます。現在の経営者である委託者が自身の株式を受託者へ信託することで、たとえ委託者が認知症等の理由で意思疎通が困難になった場合でも、受託者が経営の決定権を持ち続けることができます。

 

また、受益者は子とし、オーナー自身を委託者兼受託者とする自己信託という方法も可能なため、自分が元気なうちは自分で管理し、適宜のタイミングで子供に譲るということも選択可能です。

 

 

 

 

||家族信託のデメリット||

 

ここまでは家族信託の利点について解説してきましたが、実際に利用を検討する際にはデメリットを知っていることも重要です。家族信託のデメリットは、次のとおりです。

 

①身上監護には成年後見制度の利用が必要

②受託者を選ぶ際にもめる可能性がある

③直接的な節税効果は得られない

④家族信託した収益不動産の損益通算が禁止されている

⑤遺留分侵害額請求の対象になり得る

⑥両親や祖父母の同意が得られない可能性がある

⑦受託者による信託財産の不適切な利用の危険性がある

⑧家族信託には本人の判断能力がないとできない

⑨家族信託では「相続空き家特例」が適用対象外

⑩家族信託の制度は新しいため、運用が変わる可能性がある

 

デメリットをしっかりと把握したうえで、家族信託をうまく活用するようにしましょう。

 

 

 

①身上監護には成年後見制度の利用が必要

 

家族信託はあくまで財産管理に関する取り決めであるため、身上監護(介護や医療に関する契約など」には成年後見制度を併用する必要があります。信託契約のなかで身上監護の費用を信託財産から支払うという内容は記載できますが、受託者としてできることは信託財産である金銭を介護費用として支出することです。親が認知症になってしまった場合などに代わりに病院への入院・施設入居の手続きをすることはできません。

 

親と遠く離れて住んでいる場合や、身近な親族がいない場合で、入院の手続きをしなければならないときなどは、家族信託だけでは十分なケアができなくなってしまうでしょう。結局は身上監護のために任意後見契約を結ぶ必要があり、二度手間だと感じてしまうかもしれません。

財産管理だけではなく身の回りのケアまで担う場合は、忘れずに任意後見制度を家族信託と併用した方が良いでしょう。

 

 

 

②受託者を選ぶ際にもめる可能性がある

 

家族信託では本人名義の財産が、受託者名義に変更されます。

例えば、毎年支払う信託不動産の固定資産税の納税通知書は受託者に対して発送され、受託者は信託財産である金銭をつかって、固定資産税を支払う必要があります。

 

また、受託者には信託不動産や信託した金銭の管理を行い、管理状況を受益者である親に毎年報告する手間も発生します。そのため、受託者の負担を嫌がり、誰が受託者に選ばれるかで親族間がギクシャクしてしまう恐れがあるでしょう。

 

家族信託の内容が受託者ばかりにメリットが大きい内容であると、不公平感が生まれトラブルの元となる可能性があり注意が必要です。受託者とそうでない人への相続内容は、できるだけバランスを取って定めておくのがよいでしょう。

親族という身近な相手であるからこそ、お互いが納得して相続問題に向き合う必要があります。

 

 

③直接的な節税効果は得られない

誤解されることがありますが、家族信託をしても直接的な節税効果は得られません。

信託財産の収益については、受益者に税金がかかってしまうため、節税効果はないのです。

 

ただし、生前に委託者が受益者として設定されている場合は、家族信託をしても不動産を登記する際の登録免許税以外の税金はかかりません。家族信託をすることによって、本人の判断能力が亡くなった後は、財産管理ができるという効果を活用して、相続ギリギリまで、資産の運用ができるようになります。その結果、相続税対策としての不動産の建築、購入、売却なども相続発生まで行い続けることができます。また、受託者に信託報酬を支払うことにより信託財産も減らすことができるので、信託財産の資産額を合法的に減らすことができます。

 

このように家族信託により直接的ではなく、本人の判断能力喪失後も資産管理ができるという利点を活かし相続ギリギリまで相続対策ができるという間接的な効果を得ることができます。

 

 

 

④家族信託した収益不動産の損益通算が禁止されている

 

アパート等の収益不動産を持っている際、家族信託を利用する場合、損益通算の禁止に注意しましょう。

家族信託を組んだ場合、個人所得と家族信託内の不動産の所得は通算できなくなる制約が生じます。これは家族信託を利用しない通常のケースには適用されません。

 

租税特別措置法によれば、家族信託の中の不動産からの赤字は、税務的に存在しなかったものとみなされます。

具体的には、信託契約により賃貸不動産(家族信託内の不動産)を含む信託財産を設定した場合、税務上、その不動産からの所得は委託者(親)に属することになります。しかし、家族信託内の不動産の賃貸ビジネスが赤字となっても、それを委託者の他の所得や別の不動産の所得とは通算することはできません。

 

通常、個人が青色申告をしている際、赤字分を「純損失の繰越控除」として翌年以後3年間、後に発生する所得と相殺することが可能です。しかし、家族信託の場合、その赤字は認められず、翌年への繰越もできない制約があります。

 

 

 

⑤遺留分侵害額請求の対象になるかもしれない

 

家族信託は遺言の代わりとしても活用できるとご紹介しましたが、遺留分を侵害するような財産分与をした場合、遺留分侵害請求の対象になり得ます。遺留分とは、法定相続人に最低限保障された相続財産のことです。

 

家族信託契約によって決めた後継者に財産権(受益権)を承継するにあたって、遺留分を持つ相続人がいる場合に、遺留分相当額を請求される可能性があります。

 

 

 

⑥両親や祖父母の同意が得られない可能性がある

 

遺言に比べると2007年に新しく登場した家族信託はまだまだ認知度が低いため、親族の反対にあってしまう可能性があります。遺言や生前贈与は本人が亡くなったり、贈与をしたりといったわかりやすい形で財産の名義が変わるのが特徴です。

 

一方で家族信託は本人の財産を受託者名義で管理するため、本人や周囲の人々が抵抗感を感じる傾向があります。委託者となる親自らが家族信託をするということを理解して手続きを行う必要があり、受託者候補である子供だけで家族信託をすすめることはできません。親の名義で管理していた預貯金や不動産が受託者である子供名義で管理することに不安を感じてしまうことがあります。

 

家族信託は新しい制度であるため、制度が分かりづらい点、財産名義が受託者に変わる点などに疑問を持つ人がいると、家族信託を結ぶ同意が得られないこともあります。

 

 

 

⑦受託者による信託財産の不適切な利用の危険性がある

 

受託者は、信託契約に従い、委託者の財産を広範囲で管理・運用する権限を有しています。

ですがその正確な財産の管理や運用の責任も同時に持っています。この状況は、受託者が独自の判断で信託財産を操作するリスクを持っていることを意味します。

 

信託法には、受託者が誠実な管理者としての役割を果たす「善管注意義務(信託法29条)」や、個人の財産と信託財産をきちんと区別して管理する「分別管理義務(信託法34条)」が明記されています。それにもかかわらず、受託者は委託者の財産に直接アクセスできる立場にあり、不正利用する危険性も完全に排除できないのです。

 

したがって、受託者が信託契約に違反した場合の手段や処置に関しても、信託契約で具体的に明記しておくべきです。

公正証書を用いて契約することにより、契約違反に強力に立ち向かうことができます。

家族信託は「信じる家族に委託する」というコンセプトで進められますが、未来の問題や争いを避け、委託者の価値ある財産を確実に守るための対策の構築が求められます。

 

 

 

⑧家族信託には本人の判断能力がないとできない

 

家族信託の際、契約内容では受託者が財産をどのように取り扱い、本人の利益のためにどう行動するかが明示されます。ですが、この契約を結ぶタイミングは任意ではなく、適切な状況下での手続きが求められます。

 

成年後見制度は、本人が判断能力を持たない状態でも進行できる対策です。それに対して、家族信託の契約時に委託者の判断能力が疑われる場合、その契約は効力を持ちません。

 

家族信託に不満がある一部の家族が信託契約に対する不満を示し、委託者の判断能力が契約時に欠けていたという立場をとる事例があります。そのようなリスクがあるときは、契約時に、専門家の意見や診断書を取得しておく。加えて、委託者の意思を筆記、音声、動画等で明確に記録として残しておく、信託契約の際、公正証書を用いるなどの対策を検討しておきましょう。

 

 

 

⑨家族信託では「相続空き家特例」が適用対象外

 

2022年12月20日の東京国税局の公式文書回答によれば、家族信託が終了した後の不動産は、「相続空き家特例」の適用対象外と発表されました。

「相続空き家特例」とは、故人の所有していた空き家を相続または遺贈で取得し、その後、売却に至るまでの間に耐震改修や解体を実施した際、売却利益のうち3,000万円を控除可能な仕組みを指します。

 

ですが、受益者が亡くなったことで終了した家族信託から帰属する不動産は、「相続や遺贈による取得」とみなされないため、この特例は適用されないという結論が示されました。

もし相続を受けて空き家となる可能性があるのならば、それに備えた方法を模索するべきです。特例の適用条件には、「昭和56年5月31日以前の一戸建て」といった具体的な基準が存在します。このような基準に該当しない物件であれば、家族信託を選択しても大きな支障はありません。

 

 

 

⑩家族信託の制度は新しいため、運用が変わる可能性がある

 

家族信託の制度は新しく、まだ確定していない判例や税務指針が存在します。これにより、今後法務や税務の扱いが予想外に変わるリスクがあります。

家族信託の認知度は徐々に高まってきていますが、豊富な経験を持つ専門家はまだ少ないのが現状です。多くの弁護士や司法書士が家族信託の相談を受け付けているものの、詳細な助言が期待できるわけではありません。専門家を選ぶ際は慎重になることが求められます。

家族信託を取り扱うには、法的・税務的背景に対する深い理解が不可欠です。そのため、確かな知識と実績を備えた専門家の選択が重要です。

 

 

 

いかがでしたか。

家族信託のメリット・デメリットに関してまとめました。

初めての方は難しいと感じる方も多いでしょう。興味があれば、専門家に相談してみることをおすすめします。