生前にできる相続に向けた準備の基本

2023年07月15日

相続税は、相続に向けた準備のやり方次第では、遺された家族や親族を非常に困らせる可能性があります。
「相続する財産はそれほどないから大丈夫だろう」と相続に向けた準備をしないでいると、予想外な高額の相続税に驚いたり、親族間での相続トラブルが発生したりするケースもあるため、遺族に負担をかけないためにも、相続に向けた準備は早いうちから始めておくことをおすすめします。
今回は、知っておいて損なしの、「相続に向けた準備の基本」をご紹介していきます。




||生前にできる相続準備||


まずは、生前にできる相続に向けた準備の方法をご紹介します。



1.生前贈与による相続に向けた準備

生前贈与は、必ず知っておきたい相続に向けた準備の基本とも言える方法です。

生前贈与は、文字通り生前に財産を贈与するもので、贈与する相手や財産を、自分で選べるというメリットがあります。

暦年贈与
生前贈与の方法に、暦年贈与というのがあります。
これは贈与税の基礎控除を活用した方法で、1月1日~12月31日の1年間に贈与した財産の合計額が110万円以下であれば贈与税が非課税となり、かつ相続時の財産を減らすことができるため、相続に向けた準備として活用されています。


相続時精算課税制度
これは、親子間または祖父母から孫に対する生前贈与の場合に、最大2,500万円の贈与にかかる贈与税が非課税となる制度です。ただし、生前に受け取った財産にかかる贈与税を一時的に非課税とする制度のため、相続時には相続財産として加算され、相続税の課税対象となります。
贈与された財産は相続時ではなく贈与時の時価で評価されるため、例えば不動産を生前贈与する場合など、贈与時よりも相続時の財産の価値が上がっていれば、その分の納税金額が少なくなる可能性があります。

 

 

<暦年課税の概要>


適用条件:特になし。親子間、親族間以外にも、第三者からの贈与にも適用できる

非課税限度額:受贈者1人につき、1年間で110万円まで

贈与税の計算:(1年間で譲り受けた財産の合計金額-基礎控除110万円)×税率(10%~55%)

申告手続き:贈与税が0円(非課税枠内)の場合は申告不要

相続時の加算:なし ただし、受贈者が相続人の場合、相続開始3年以内に譲り受けた財産は、相続財産に加算する

メリット:贈与した財産は相続税の課税対象とならないため、生前に贈与することで相続財産が減り、想定以上の納税額となるリスクの防止につながる

デメリット:非課税枠が小さい

 

 

 

続いて相続時精算課税制度に関しての特徴はこちらです。


<相続時精算課税制度の概要>
適用条件:60歳以上の父母又は祖父母から、20歳以上の子又は孫に対して財産を贈与する場合のみ(年齢は贈与年の1月1日で判断)

非課税限度額:贈与者1人につき2,500万円まで

贈与税の計算:(譲り受けた財産の合計金額ー特別控除2,500万円)×一律20%

申告手続き:贈与税が0円でも申告が必要

相続時の加算:譲り受けた財産を贈与時の時価で相続財産に加算する

メリット:価値の上昇が見込める住宅や土地などの財産を贈与することで、相続税の財産の評価額を低く抑えることができる可能性がある

デメリット:住宅や土地などの財産を贈与する場合、不動産取得税や登録免許税など、贈与税以外の税金がかかる


 



それぞれ特徴を掴み、より良い選択をしましょう。


2.不動産を活用した相続に向けた準備

相続に向けた準備では、不動産を活用するのもおすすめです。
不動産にかかる相続税は、原則では路線価や固定資産税をもとに相続税評価額が算出されるため、現金で相続するよりも相続税評価額を引き下げられる可能性があります。
不動産の相続や生前贈与では、特例を活用できるというメリットがあります。不動産の相続に向けた準備で活用できる特例は以下の通りです。

 


・小規模宅地などの特例
・贈与税の配偶者控除の特例

 


小規模宅地などの特例
これは、住居として住んでいた土地や事業・賃貸用として使っていた土地を相続する場合に、一定の要件を満たすことで相続税の課税評価額が50%〜80%減額されるという特例のことです。
この特例は適用要件が複雑なため、税理士などの専門家に相談しながら検討しましょう。

贈与税の配偶者控除の特例
これは夫婦間で居住用不動産などの生前贈与を行う場合に活用できる特例です。

最大2,000万円の特別控除が適用され、暦年贈与の基礎控除110万円と組み合わせることで、最大2,110万円までの贈与が非課税となるため、不動産を生前贈与することで円滑な相続に繋がります。

 



3.生命保険を活用した相続に向けた準備

生命保険も相続に向けた準備として活用されています。相続税の非課税控除(500万円×法定相続人の人数)が適用できるためです。また、生命保険から支払われる死亡保険金の受取人は指定することができ、遺産分割の対象外となるため、特定の人に対して確実に財産を残したい場合にも活用されています。また、暦年贈与と生命保険を組み合わせて相続に向けた準備を行うことも可能です。

 

 


4.家族信託による相続に向けた準備


家族信託とは、認知症などにより円滑な相続が難しい場合に有効です。財産を保有する人が、生前のうちにその財産管理を銀行ではなく信頼できる家族に託す民事信託のことを言います。

家族信託は、将来的に相続の対象となる財産を、生前のうちから家族が受託しておくことで、突然の病気や認知症などによる判断能力低下による資産凍結を防ぎ、財産を保有する人が亡くなった後は、受託した家族が本人の希望に従い、本の代わりに財産の管理ができるというメリットがあります。

 

 


5.養子縁組による相続に向けた準備
相続税には基礎控除額があり、基礎控除額は法定相続人の人数が多いほど増えます。
そのため、例えば養子縁組により法定相続人を増やすことで基礎控除額を多くすることができます。
もちろん、相続税の負担を不当に減少させる養子縁組は認められていません。

 

 

 


||生前に行っておくべき争いを防ぐための準備||

相続に向けた準備として考えるべきなのは、相続税評価額だけではありません。家族や親族が遺産相続を巡り争うことはよくあります。特に複数人の相続人がいる場合は、遺産分割協議がまとまらずにトラブルになる可能性が高いです。

特に、相続の対象となる財産に現物不動産が含まれる場合、分けにくい財産として、相続トラブルに発展しやすいと言われています。相続時のトラブルを回避するための相続に向けた準備についても、生前のうちから考えておく必要があります。



 

||いつから相続に向けた準備を始めるか||


様々な相続に向けた準備の方法をお伝えしてきましたが、つい「まだ先の話かな…」と思われる方も多いのではないでしょうか。
ですが、相続に向けた準備は、今すぐにでも始めることをお勧めします。
なぜなら、相続という機会がいつ来るか分かりません。


相続に向けた準備は、生前に行うからこそ効果があるものが多く、相続が始まってからではできることが非常に限定されます。
例えば健康を損ねたり、認知症などで判断能力が低下すると、相続に向けた準備を検討することも難しくなるため、大切なご家族や親族へ負担をかけないように、相続に向けた準備はできるだけ早いうちから検討しましょう。