税制改正 生前贈与は7年前まで延長に
2023年11月24日
||生前贈与加算が3年から7年になった税制改正||
2023年の税制改正では、資産税に関しても大きな改正がありました。
相続税における生前贈与の加算の対象が、亡くなる3年以内という従来の期間から7年以内に延長することになりました。
相続税の課税対象が広げられるので、これは実質的には増税と捉えてよいでしょう。
今回決まった内容は、制度の内容は非常に複雑です。
この記事では、税制改正の内容を説明するとともに、この改正をふまえた生前贈与による相続税対策の方法について解説していきます。
||生前贈与加算とは||
まずは、生前贈与加算とは何か解説していきます。
相続税とは、家族の誰かが亡くなったことなどにより、相続が発生して財産を受け取った場合にかかる税金のことを言います。
一方で、生前には自由に財産を処分することができるため、亡くなる前に贈与によって財産を移動し、相続税の課税を免れようとするケースがあります。
このような財産に関しても、相続税の課税対象とするべきという考えから、亡くなる前の一定期間の贈与は財産に加算するというのが生前贈与加算と呼ばれるものです。
これを”持ち戻し”という場合もあります。
この加算をする場合は、贈与税について非課税とされていた年間110万円の分も含めて持ち戻す必要がありますが、他方で贈与税として支払った税金があれば、その分は相続税額から控除されます。
持ち戻しの対象となるのは、相続または遺贈により財産を受け取った人が生前に受けていた贈与のため、対象期間内のすべての贈与が対象になるわけではありません。
また、相続時清算課税を選択して生前贈与を受けていた人に関しては、すべての贈与分が持ち戻しの対象となります。
||生前贈与加算の内容について||
2023年の税制改正では、この生前贈与加算の対象期間が、相続開始前の3年から7年以内に延長となりました。
単に対象期間が延長となった、というわけではないので注意しましょう。
どういうことかというと、相続開始前の3年以内の贈与が加算対象となるのは従来通りですが、4年以上前のものは、その期間の生前贈与の額から100万円を控除した額が持ち戻しの対象となります。
(例)年間100万円の生前贈与を続けていた場合
3年以内の300万円はそのまま持ち出しの対象
4〜7年以内の400万円は、100万円を控除した300万円が持ち出しの対象
||相続税と贈与税の一体化||
そもそも贈与税も、生前に贈与することで相続税の課税を逃れようとする行為を防ぐ意味で、相続税を補完する役割を担うものです。
ただ、相続税や贈与税には、その課税方法や税率に差異があることから、これまでも「資産の移転時期の選択により中立的な税制」を目指して税制改正が検討されてきました。
2003年に導入された「相続時精算課税制度」は、生前に贈与を受けたとしても、特別控除額2500万円以内の財産には贈与税がかからず、相続税の際に生前贈与の額を持ち戻すというものです。
これは「資産の移転時期の選択により中立的な税制」という考え方を反映した制度ですし、今回の改正でも、後に重要な改正がなされています。
||どのくらい増税になるのか||
生前贈与の加算対象が3年から7年に伸びたことで、どのくらい増税になるのかを算定してみましょう。
(例)課税資産増額が1億5000万円、相続人が毎年100万円の暦年贈与をされていた場合
ここでは相続人が1人と仮定します。
生前贈与加算が3年間の場合
生前贈与が300万円持ち戻されます。
そのため、課税資産1億5000万円に300万円が加算され、1億5300万円が課税対象となります。
下の相続税の税率速算表(※)を参照していただけるとわかるように、税率40%をかけて1700万円を控除すれば計算されるため、4420万円となります。
※相続税の税率速算表
相続分に応じた取得金額 税率 控除額
1000万円以下 10% ー
3000万円以下 15% 50万円
5000万円以下 20% 200万円
1億円以下 30% 700万円
2億円以下 40% 1700万円
3億円以下 45% 2700万円
6億円以下 50% 4200万円
6億円超 55% 7200万円
続いて、今回の改正で生前贈与加算の対象が7年になったときはどうでしょうか。
同じ条件で行くと、上記の300万円に加えて、それ以前の4年分の400万円の生前贈与が持ち戻しの対象となります。
しかし、相続開始から4年以前の生前贈与は100万円を控除してから持ち戻しとなるため、総額600万円が加算されることになり、1億5600万円が課税対象となります。
そしてこの財産額に税率40%がかかるため、1700万円を控除すると、相続税額は4540万円となります。
つまり、生前贈与加算が3年間から7年間に延長されたことにより、4540万円-4420万円=120万円の相続税額の増額となります。
||いつから始まるか||
生前贈与加算は7年間は、いつから始まるのでしょうか。
今回の税制改正で延長された加算期間の対象となるのが2024年1月1日以降の生前贈与です。
2023年までの生前贈与は、引き続き、従来の3年以内の加算対象とされることはありますが、延長の7年の加算対象とはなりません。
注意するのは2027年1月1日以降に発生する相続での生前贈与です。
これ以降に発生した相続に関しては、7年間の加算対象が問題となるため気をつけましょう。
||生前贈与加算の増税を抑えるために||
増税を抑えるためにはどのような方法があるかをお伝えします。
・孫への贈与
・相続時精算課税制度の活用
・他の贈与税の非課税措置の活用
・贈与はしない
それぞれ、注意点などを含め解説します。
・孫への贈与
生前贈与の持ち戻しの対象となるのは、相続または遺贈によって財産を取得した人に対するものだけです。
そのため、相続人でない孫に対する生前贈与は、持ち戻しの対象にはならないのです。
注意点としては、孫の親が先に死亡していて代襲相続が発生していたり、孫が遺言などで財産を取得していたり、相続時精算課税制度による贈与を受けていたりするときは、孫に対する生前贈与も持ち戻しの対象となってしまうことです。
・相続時精算課税制度の活用
今回の税制改正では、相続時精算課税制度の見直しもされました。
これまで、いったん相続時精算課税制度を選択すると、それ以降に受けた生前贈与はすべて持ち戻しの対象となり、暦年贈与を適用することもできなくなりました。
そのため、年間110万円の非課税枠も使えなくなってしまうことから、この制度は、相続税の節税方法としてはあまり役に立たないものだと言われてきました。
今回の税制改正では、この相続時精算課税制度を選択した場合にも、110万円以内の贈与であれば、持ち戻しの対象とはならず、申告も不要です。
そのため、子どもなどの法定相続人については、この相続時精算課税制度を活用し、110万円の生前贈与を活用して対策するという方法をとることもできるようになりました。
実際に、この相続時精算課税制度を活用して対策を進めるのが良いのか、暦年贈与を使っていくのが良いのかは、対策を進める人の財産額や年齢、相続人の状況によりますので、慎重に検討しましょう。
・他の贈与税の非課税措置の活用
今回の税制改正で、贈与税の年間110万円の非課税枠を活用して相続税対策を進めることが難しくなってきました。
ただし、贈与税にはこのほかにも非課税措置がありますので、そちらを活用するという方法があります。
結婚・子育て資金の一括贈与の非課税措置は、2023年3月31日で終了する予定でしたが、2年間延長されることになりました。教育資金の一括贈与の非課税措置についても、同様に、期限が3年間延長されることになりました。これ以外にも、住宅取得等資金の贈与についての非課税措置などもありますので、これらを活用して対策を進めていくのがよいでしょう。
・贈与をしない
今回の税制改正で、暦年贈与を利用してせっかく生前贈与を進めていったとしても、すべて持ち戻しの対象となってしまい、それらの対策は無駄になってしまうリスクが高くなってしまいました。
ただし、相続税では、配偶者についての税額軽減であったり、土地についての小規模宅地等の特例であったり、さまざまな税額の軽減措置があります。
現在の財産額が相続税の基礎控除額を超えているからといって、すぐに生前贈与の対策にとりかかるのではなく、これらの税額の軽減措置を使えば実質的に相続税がかからないのであれば、あえて生前贈与はしないということも選択肢の一つです。
||生前贈与前を決める前に||
今回の税制改正で、単純に、子や孫に生前贈与をすれば相続税対策になるということはなくなりました。
制度の内容も複雑になったため、進めている対策が無駄になってしまうリスクもあるでしょうし、どのような方法が最適であるのかは、さまざまな事情を考慮したうえで決めていく必要があります。
相続税対策の進め方について不安に感じる場合や、どのように進めるのが良いのかは、相続税に詳しい専門家に相談してから進めていくのが良いでしょう。